「オウム」は再び現れる (中公新書ラクレ)

「オウム」は再び現れる (中公新書ラクレ) の詳細

オウムに関係した宗教学者のオウム研究総決算の本である。簡潔にオウム思想が整理され、その危険性を提起する。それは、オウム思想が利用される危険性である。信教の自由は憲法で保障されている。あくまでも個人がオウムに入信し、出家してヨーガなどの厳しい修行により解脱することを目指す通常の仏教に関する新興宗教にオウムが止まっていたならば、地下鉄サリン事件は起こらなかった。ハルマゲドンを唱え、汚れた現世を浄化するという思想を尊師麻原が提起した瞬間から、オウムは危険宗教となった。そもそも仏教にはそのような危険な革命思想はない。個人が解脱して仏となることが目的だ。宗教とはそもそも個人が神を信仰するという個人的な営みだ。それが現世破壊の暴力宗教に変貌したのはなぜか？それは麻原個人の思想的変遷を辿るしかない。各巻千頁前後の『麻原彰光ラストスピーチ』が4巻刊行されているという。これはオウム研究の貴重な資料たりうるが、残念ながらアマゾンでは入手不可能だ。日本史を繙くと、かつて信長の石山本願寺焼き討ち、一向一揆など宗教勢力と政治権力との激しい戦闘が行われたが、それらのものは、政治的弾圧にた対する宗教的抵抗であって、現世破壊が目的ではない。オウムの場合、破壊行為は政府（権力側）には及んでいない。化学的劇薬（サリン）を用いた罪もない一般人の殺害だ。ここにオウム事件最大の問題と犯罪行為が認められる。麻原の個人的思想と尊師の命令のままに行動したタテ社会的階層組織。これが絶妙にマッチングしてあの事件が惹き起こされたのだ。もし一人でもサリン散布の犯罪性に気づき、事前に密告（告発）する者がいたら、あの悲惨な事件は防げたはずである。この教団のタテ構造と命令のままに行動する教団幹部の心性があの事件を生んでしまった。「オウムが再び現れる」ことを防ぐには、法的規制は不可能だ。危険思想を行為によって示す教団を告発する地元住民によるチェック（抑制）しかないのではあるまいか？本書から学ぶべきことは多い。お勧めの一冊だ。